書評・レビュー: 2009年4月アーカイブ

 門倉美咲と伊崎基子、警視庁捜査一課特殊班捜査係に所属する二人の刑事を主人公とした長編の警察小説です。

 静と動、全く異なる特徴を持つ二人は、都内で発生したある人質籠城事件をきっかけに別の部署に異動します。

 所轄の警察署に異動した門倉美咲は、ある未解決の誘拐事件の捜査を担当します。そして、籠城事件と誘拐事件の間の関連性を知り、捜査を進展させていきますが、犯人を追う中で潜入した廃ホテルで、別の誘拐事件を起こした犯人と偶然に遭遇します。

 一方、SATに異動した伊崎基子は、人質の救出と犯人確保のためにその廃ホテルに出動することになります。自らの攻撃力に磨きをかけた基子は5人の犯人をほぼ独力で倒すとともに、人質を助けるために逆に人質となった美咲を結果的に救出することに成功します。

 その後、美咲は2つの誘拐事件の黒幕である「ジウ」を追うために、犯人の取調べを行い、ジウたちの考える「新世界秩序」を知ることになり、一方の基子は独自に「ジウ」のことを追い、新世界秩序サイドの人間に近づくことになります。

 そして、最終的には歌舞伎町を舞台に、新世界秩序がある動きを起こすことになります。

 文庫本全3巻、1100ページ以上にものぼる長編小説ですが、壮大なスケールの物語がスピーディーな展開で進んでいくために、長さを感じさせません。

 また、二人の主人公を中心としたエピソードに加え、タイトルの「ジウ」とその背後にいる『誰でもない人間』である「ミヤジ」の生い立ちに関するエピソードが、ストーリーに重厚感を与えており、結果として非常に読み応えのある一冊に仕上がっている印象を受けました。

 先が気になる小説なので、平日に読み始めるのは必ずしもおススメできませんが、ゴールデンウイークに読み応えのある小説を読みたいような方におススメです。

 

       

 

 レッドクリフの完結編をPart1に引き続き、新宿バルト9に見に行ってきました。

 映画の内容は「わかりやすい」に特化していたなと言う感じです。

 まず、わかりやすいのは、その内容。ストーリー全編を通じ、勧善懲悪の「ヒーローアクション」作品として描かれていました。周瑜の勇敢さや諸葛亮の聡明さを描きつつ、曹操を徹底的に悪党として描くことで、観る側にとって非常にわかりやすい関係性が描かれていました。

ただ、本作で注目すべきなのは、映画としてのわかりやすさよりも、映画本編に至るまでのわかりやすさだと思っております。

  • 事前のDVD、TV放映を通じた予習
  • 数パターンの切り口によるCMを通じた見所の予習

 といった事前学習に加え、

  • 上映時における「前作のおさらい」

 が存在しており、前作を見ていない人や忘れてしまっている人でも置き去りにされない工夫がなされております。

 そのため、休日に友人や恋人、家族と楽しむ映画として最適な仕様に出来上がっていると思われます。(多少、グロテスクなシーンはあるにせよ)

 蜀の武将達の相変わらずのドラゴンボール的な強さ、曹操軍に潜入した孫尚香のありえない恋愛エピソード、等など、作品自体には突っ込みどころがあります。(一番の突っ込みどころは完全にネタばれになるんでかけませんが)

 ただ、そういった細かい所に突っ込みを入れるのはナンセンスだと思っております。

 誰もが楽しめる娯楽映画を提供する、そしてそのためにあらゆる工夫を行う、エンタテインメントとしてその姿勢を感じ取れることが本作では一番すばらしいところではないでしょうか?

 そういった意味で、Part1を見た人も全く見ていない人にも安心して薦められるエンタテインメントだと思います。

 ライフネット生命の代表取締役社長の出口社長による著書。

 現在、ライフネット生命は「正直に経営し、わかりやすく安くて便利な生命保険商品・サービスを提供する」というマニフェストの下、生命保険の付加保険料(事務手数料などの経費)を公開する等、新しい試みを行っていますが、本書は、その試みの原点を知ることができる一冊です。 

 本書の内容は、大きくライフネット生命の立ち上げやビジネスモデル、経営方針に関する記述と出口さんのキャリアに関する記述の2つに分類されますが、とりわけ、後者の出口さんのキャリアに関する部分が面白いです。

 具体的には、第5章の「起業の原点は日本生命での経験」においてそのキャリアについては描かれておりますが、確かに起業家としての原点をそこに見出すことができます。

 日本生命時代に出口さんが手がけた大きなチャレンジとしては 「他業種への参入」と「海外への進出」の2つを実行されました。本人は大きな成果は残せなかったとP169で書いておりますが、その文章からは、社内外を含めた非常に複雑な利害関係の交渉を行い会社に貢献し、その一方で、人的ネットワークを築き上げていったかが感じ取れる内容であり、読んでいて引き込まれる感覚を覚えます。

 また、本書を読んでいて感じるのは、明治時代の志士達の「匂い」です。最近の事業家だと、前ライブドアの平松さんとも近しい印象ですが、ネアカでありつつ、合理性を重要視するその姿勢は、学ぶべきものが多いです。

 元々「ハーバードMBA留学記」を読んで以来ライフネット生命の動向は気にしていたのですが、出口さんについてはノーマークだったことを反省させられつつ、ライフネット生命についてはがんばってほしいので、来年くらいを目処に加入も検討したいと思います。

 

 

 読んだのは告白より前ですが、あまりの後味の悪さに書評を書きそびれていた作品。

 本作のあらすじは以下の通り。

 夏休みを迎える終業式、欠席した友人にプリントを届けにいった小学校四年生の主人公は、旧友が首をつっているのを発見します。あわて、学校の教師にそのことを伝えますが、教師が警察を連れ彼の家を訪れた際にその死体は忽然となくなっておりました。

 その一週間後、友人は蜘蛛にその姿を変え、彼の元を訪れます。そして、彼は言います。「僕は殺されたんだ。」そして、主人公は妹のミカとともに、彼の死体を捜し、彼を殺した犯人を捜すこととなります。

 と、ここまでは冒険小説の一種か思わされます。(友人が蜘蛛になって帰ってくる時点で「変身」的ではありますが)

 ただ、読みすすめるに従い、妙な違和感を覚えます。主人公の母親の言動であったり、3歳のはずの妹がやけに大人びていたりと読んでいてひっかかる部分があります。

 そのひっかかりは、二転三転するストーリーの中で次第に明らかになりますが、真相が明らかになる気持ちよさに反比例し、登場人物達とその世界のいびつさが露見されていくことになり、後味の悪さにため息をつかされました。

 決してお勧めできる一冊ではないですが、読み応えのある一冊でした。

 

 2009年の本屋大賞を受賞した作品です。

 「読後感が悪い」というような評判を聞いていたので、買うか買わないか悩んでいたのですが、とうとう購入したと言ったところ。

 退職を決めた女性の中学教師が終業式の日のHRで、生徒に対し「告白」をするところから物語は始まります。

 「学校内で事故により死亡した自らの娘が、実はクラスの生徒の手によって殺され、自らの手で復讐を行った」、というその告白により、周囲の状況は一変することになります。

 本書の大きな特徴は、その描き方にあります。

 各章ごとに異なる登場人物による独白の形で展開されていくストーリーは、主観の積み重ねで構成されていきます。そのため、各章を読んでいる段階で自分の頭の中に描くストーリーは変化し続けていき、その変化を通じ、読み手を物語の世界に引き込んでいきます。

 テーマが「罪と罰」という重いものであり、また、本書は一貫して「救いがない」内容で構成されているため、読んでいる最中、また、読み終わった後に爽快感といったものは一切存在しておりません。

 ただ、その点を差し引いたとしても、読ませる力が非常に強く、一気に読みすすめざるを得ない作品でした。

 過去の本屋大賞とは全く異なる性質の作品ですが、やはり本屋大賞に外れはない、そう改めて感じさせられました。

 

 

 前職の同僚だったカツマ君に薦められて購入した一冊。

 2006年に開催された第一回WBCに帯同した著者が見た日本代表の舞台裏について書かれておりますが、スポーツライターとして実績を積んだ著者だけに、その取材力と文章の構成力は確かなものです。

 特に、イチロー(最新号のナンバーのWBC特集のイチローのインタビュー記事も本書の著者によるものです。)に関する描写は、読んでいて引き込まれる感覚を覚えます。

 また、第一回のWBCはアメリカに行って観戦し、『世紀の大誤審』を生で目撃している身として(メキシコ人に「あれはないよね」と励まされました。)その当時の記憶を強く思い出させてくれます。

 反面、読者がこのような文章を求めるだろうという流れで書かれすぎているのが残念なところです。

 リーダシップを発揮するイチロー、彼を慕う川崎や今江などの存在、またイチローを影で支える宮本や谷繁、また、日本代表としてのあり方の見本である杉浦正則の存在、等々については、たとえ、それが真実に違いなくても、少々ステレオタイプ的に書かれすぎています。そのため、ひねくれものとしては別の視点からのストーリーを知りたくなってしまいます。(それこそ、2004年アテネオリンピックを描いた奥田秀朗の「泳いで帰れ」ではないですが。)

 ただ、そういった点を差し引いても、野球好きにはたまらない一冊でした。

 

  

Profile

HN:decchy
大手通信会社でエンジニア・営業経験を積んだ後、IT系ベンチャー企業に転職、 営業・企画・PR等を行うマネージャー業務を担当し、 2008年の東京インタラクティブ・アド・アワードに入賞する等の実績を残す。
現在はプライベートエクイティに転職し、投資業務並びに経営支援、新規事業開発支援業務に従事中。

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