書評・レビュー: 2009年3月アーカイブ

 「常識」破りの戦術でヒット作を量産し、地位を築き上げた幻冬舎。本書は、その幻冬舎の社長でありカリスマ編集者でもある見城徹氏が、作家、編集者、出版社の3つの立場から、いかにして作家との関係を構築し、作品を作り上げていったかが書かれている一作。

 読み終わっての感じたのは、感情を読み取る感覚の鋭さです。強烈な自意識とコンプレックスから生じている鋭さではないかと思われますが、その鋭さこそが作家と対峙した際に、作家の心の内にあるテーマを突き刺し、表現に向かわせているのではないかと思われます。

 中上健次、村上龍、石原慎太郎といった作家や、尾崎豊、坂本龍一等のミュージシャンとの間のエピソードは、どれも非常に濃厚なものです。そして、その濃厚さは見城徹という編集者が、いかに深層心理の深くにもぐり、核心を鋭さで貫こうとしているからに他ならないのかもしれません。

 そして、その鋭さは読み手についても覚悟を問いかけているような気がします。仕事への向き合い方、自分への向き合い方等、考えさせられる一冊で、気合を入れなおさせられます。

 

 

 週刊プレジデント2009.2.2号「勝ち残る人が読む本 落ちる人の本」で紹介されていた1990年に出版されたビジネス書です。

 著者であるヤン・カールセンは最前線にいる従業員が顧客と接する最初の15秒間にわたる接客時間を「真実の瞬間」と呼びます。顧客が会社に対して抱く印象を決めてしまう重要な時間であることから呼んだ言葉ですが、本書はそのヤン・カールセンがいかにして複数の企業を変革に導いていったか、何が重要な要因であるかと言ったことが、スカンジナビア航空での経験を中心として書かれております。

 1981年、ヤン・カールソンは経営危機に陥っていたスカンジナビア航空の社長に就任し、わずか一年で会社を黒字化し、3年後には会社を『エア・トランスポート・ワールド』誌が選ぶ年間最優秀航空会社に導きます。市場の転換期においてビジネスユーザをフォーカスするターゲットとし、その戦略に合致する形で顧客本位的な企業にスカンジナビア航空をを作り変えていきます。

 彼は、ビジネスユーザ向けの「ユーロクラス」を新設したり、乗り継ぎをスムーズにするようにゲートを調整したりすることでビジネスユーザの利便性を高める反面、一般的で有効だけれどもビジネスユーザの利益に合致しない戦略を不採用としていきます。

 さらに彼は、ビジネスユーザを満足させるためのソフト面の向上のために現場に権限を委譲します。その上で、試行錯誤しながら、中間管理職の立場を「経営者の方針にそって形で現場従業員が業務を行うことサポーター」に変化させていきます。

 これらの戦略はそれこそビジネス書で色々と書かれているような当たり前のことかもしれません。ただ、だからこそ、自らの反省を含めつつも戦略を実行に移せたという点が非常に印象的に感じるとともに、自らの仕事がいい『真実の瞬間』にあたるかを常に考え直させられる一冊でした。

 

 

 本田宗一郎とのコンビで本田技研を世界のHONDAに育て上げた名経営者藤沢武夫さんが語りおろした経営論です。

 本書を大きく分類すると2つの内容に分けられます。

 一つ目は小さな工場から出発し、ホンダが大企業となっていくまでが中心で述べられている半生で、もう一つが、経営者としての日々の中からどのような考えの下で行動し、経営者として鍛えられたかという経験に即した経営論ですが、どちらの内容も非常に充実していていました。

 戦後の混乱の時代に誕生した町工場が試行錯誤を繰り返しつつ、大企業に成長していく過程は純粋な成功ストーリーとして、読み応えがあり、ワクワクさせられます。

 また、経営論の部分についても、「たて糸を編む」「たいまつは自分で持つ」といった独自の言葉を使ってまとめられておりますが、経験に裏打ちされた内容であるだけに、わかりやすく、また重く感じられます。

 とりわけ本書を通じ繰り返し書かれている「たて糸をあむ」という表現は、「万物流転のさだめ」にあらがい、企業が存続し続し続けるための根幹として非常に含蓄にあふれておりました。

 そして、なにより心にしみるのがP226から書かれている「二十五年目の幸せな別れ」のくだり。経営の一線から引退する際のエピソードですが、「だれかの鞄持ちをして、なんとかその無名の人の持っている才能をフルに生かしてあげたい」という夢が最終的に結実した万感の思いが伝わる、非常に心に残る内容でした。

 名経営者としての思想を知るという点でも、天才エンジニアに仕えた世界一の鞄持ちの人生を感じるという意味でも必読の一冊です。

 

 

 本書は、「岳物語」から連なる椎名誠の私小説です。

 中学受験を経験している30前後の人間の多くが触れたことがあると思われるベストセラーの出版から25年、四半期という長い時間を経た作品です。

 ストーリとしては、「サンフランシスコ」「八丈島「沖縄」「奥会津」「北海道」等の旅を続けつつ、周囲が変化していることについて思索する日常が綴られているのですが、文章全体に一つのテーマが感じられます。

 前々作の「春画」では母親の死であり、前作の「かえっていく場所」では妻の更年期障害だったテーマですが、本作のテーマは、同年代の人達の死と衰えではないかと感じられました。

 ときおり繰り広げられる祖父と孫との会話に心を和まされる瞬間はあるのですが、それ以上に感じるのが、友人の妻や別のカメラマンの友人の死に関するエピソード等に代表される、同年代の人達の死と衰えが本作からは感じられました。

 自分の両親よりも少し年上の世代の人々のエピソードではあるのですが、「父親」が少しずつ老いていっているということを、しみじみと考えされられます。

 5月には続編も出るよう予定です。おぼろげながら感じられる「大きな約束」の意味を知るとともに、四半期以上にわたる一つの人生を体感すという点で、必読だと思っております。

 

 予告編で気になっていたトム・クルーズの最新作「ワルキューレ」を観にいってきました。

 祖国のことを考えた将校らによるヒトラーの暗殺計画に関する話で、事実を元に構成された映画です。(元となったワルキューレ作戦についてはWikipedia等を参照ください。)

 事実として暗殺計画は失敗に終わっていると知っているだけに、トム・クルーズが演じるシュタウフェンベルク大佐による暗殺実行から、失敗に終わるまでの経過については手に汗握る展開となっております。

 他方、事実をベースにしているから仕方がない部分があるかとは思いますが、ストーリーの前半部分の反面暗殺が実行に移されるまでの経過については、やや冗長すぎる印象を受けました。(事実、眠くなる瞬間が何度かありました。)

 また、あくまで暗殺実行サイドから描かれているおり、暗殺実行直後からのヒトラーサイドの動きについて描かれていない点について消化不良な印象も受けました。(特に実行直後から作戦の発動がなされるまでの3時間程度の間、何がなされたのか、後日談的な描き方でも知りたいと思わされました・・・もっとも、ナチスサイドからの描き方は政治的にも難しいのかもしれませんが)

 非常に興味深い題材だったのですが、結論としてはおススメできるレベルではないという所でした。

 昨日、仕事帰りに「DRAGONBALL EVOLUTION」をみてきました。

 公開初日の20時の回、新宿バルト9の客の入りは2-3割程度。予想以上にガラガラ、違う意味でもドキドキでした。

 そして、肝心の内容。(ネタばれがありますので、気をつけてください)

 各種映画情報や予告編による「孫悟空がアメリカの高校生」であるという情報や鳥山明先生の「映画は別物」というエクスキューズ等を見ていたので、多少のことは驚かないと思ってました。

 ただ、開始数秒、冒頭のナレーションからその予想は裏切られました。

 「今から2000年前、ピッコロとOzaru(大猿)が日本を滅ぼそうとして・・・」

 言葉にすると普通に思えますが(いや、あの猿はピッコロの手下じゃないだろという原作との矛盾は別です。)実際は、英語で「Ozaru」って言っていってます。なんで、そこは日本語なの?この時点からDragonballワールドに引き込まれます。その後もツッコミどころが満載。

 ただ、特にその中でも秀逸だったのが、アメリカの思春期の高校生になっている孫悟空の描き方。

  • 授業中、胸の大きな女子に見とれる
  • 彼女にパーティーに誘われ整髪剤でリーゼントに決める。
  • 5本のロウソクに火をつけるカメハメ波の修行がうまくいかず、ズルをしようとする。
  • さらに、彼女に「ロウソクに火をつけるごとに私に、近づいてもいいわよ」と言われると急に成功する。
  • 最終的には3本同時に成功し、キスに持ち込む

 世界の破滅の危機を救える主人公とは思えない数々の行動です。漫画の悟空とは違ったところに尻尾があると思われます。

 その他にも、

  • カメハメ波を心臓マッサージに使う
  • 大猿に変身した孫悟空が根性で人間の姿に戻る。
  • 孫悟空がきちんとカメハメ波を打てたのは一回だけ
  • しかも、打った後、本人が飛んでおり、界王拳に思われる

 と言い出したらキリがありません。中途半端に原作を意識している上に、観る側がある程度ストーリーを補正してしまうため、粗さが目立ちます。どうやったらここまで雑になるんだろうと思うくらいの描写。

 そして、ストーリーとして一番の驚きは

  • ドラゴンボールを冒険し、探したのは一個だけ

 ということ。あとは誰かが元々持っていたか(亀仙人の家の中とか)、敵のピッコロが集めたものです。二週間前に似たような映画を見た気がしたのですが、スケールが違いました。他人任せにも程があります。

 そして、最後まで驚きが残されてました。悟空とチチのラブコメ風格闘シーンで浜崎あゆみの主題歌とともにエンドロールが流れ、終わるかと思われた後のことでした。

 悟空にやられたと思ったピッコロが生きており、しかも、冒頭に近いシーンでドラゴンボールを奪った相手である女性(「アヒルと鴨のコインロッカー」のヒロインの関めぐみ)に看病されるという続編を意識させるようなプロローグがそこには残されておりました。まさかのサプライズにも程があります。

 ただ、ひとつこの映画は教えてくれます。

 それは映画館は映画を見終わってからも映画だということ。映画終了後、見に行った4名で居酒屋に言ったのですが、話が盛り上がること盛り上がること。(おかげで今日、のどが痛いです)そういった話題の共有も含め、映画は楽しむべきなんだろうなあと思わされました。

 ある意味見る価値のある映画です。

 ただ、ドラゴンボールを観たことがない女の子を誘って見に行くことはしてはいけません。完全に彼女は置いてけぼりになってしまいます。映画に誘いたい女の子がいる場合には、素直にレッドクリフまで待つのが得策でしょう。

 

 言わずとしれたホリエモンの新著。「ライブドア事件」に関する出来事を中心に、彼の立場から語った「事実」や彼自身が今現在思っていることが述べられております。

 個人的には、ライブドアのNo.2であった宮内被告の「虚構 堀江と私とライブドア」と堀江さんの後にライブドアの社長となった平松さんの「僕がライブドアの社長になった理由」は読んでいたので、記憶を呼び戻しつつ、読み比べるというスタンスで読みました。

 拘置所での生活や検察とのやり取り、また、現在の心境を綴っている部分は結構面白いです。

 ただ、個人的に一番関心があったライブドア事件に対する彼自身の認識や意見は「まあ、そう考えているだろうなあ」という程度の印象しか受けず、読み応えがなく、拍子抜けしました。(もっとも、ブログを読む限り彼の主張は一貫してぶれていないので、予想通りの主張になるのは当たり前なのですが。)

 結論から言うと、そこまで読むべき内容がある本ではありませんでした。正直、彼のブログを読む方がよっぽど面白いです。

 

 鹿男あをによしや鴨川ホルモーの著者、万城目学の新作長編小説。奈良・京都と続いた次の物語の舞台は大阪です。

 調査のため大阪を訪れた3人の会計検査院の調査官と、大阪に住む二人の中学生。一見、関わりがないように思われる二つの物語が、大阪の持つある因縁によって結び付けられていくというストーリー。

 結論から言うと、これはホントに面白い一冊です。 

 過去の作品同様、一見、荒唐無稽に思われるストーリーが本作でも展開されます。しかし、それに対し、地名や建築物などの現実世界のディテールを加えることで、物語に深みとふくらみを持たせることに成功しております。

 例えば、大阪の特徴である「古い近代建築が残る町」という現実の特徴を物語の中盤におけるひとつのキーとしており、具体的な建物をいくつか物語に登場させております。おそらく、そのうちのいくつかは現実には存在しないものなのでしょうが、そのリアルとファンタジーのバランスが読む側に心地よく思えます。

 また、本作については、伏線の張り方も見事です。登場人物の名前等から読み手が推測できる伏線と、後から気がつかされる伏線が絶妙なバランスで配置されており、いい意味で期待を裏切られます。

 マイナス点としては、多少ステレオタイプ的な展開があります。ただ、過去の作品になかったテーマ性という部分を表現しているところを加味すると個人的にはアリでした。むしろ、いくつかのテーマが示されていたことで、過去作品よりもいい読後感が得られた印象を受けました。

 結果、500ページ以上ある作品でしたが、一気に読んでしまいました。

 自分が購入している初版本の帯には「はっきりいって、万城目学の最高傑作でしょう」と書かれておりますが、間違いなく同意できる一冊です。

 さらにはあり、個人的には早くも来年の本屋大賞でベスト3には入るのではないかと思える位の良作でした。(一位と書かないのは、夏にでる村上春樹の新作を期待したいというのもあり・・・というところですが。)

 

 

 

Profile

HN:decchy
大手通信会社でエンジニア・営業経験を積んだ後、IT系ベンチャー企業に転職、 営業・企画・PR等を行うマネージャー業務を担当し、 2008年の東京インタラクティブ・アド・アワードに入賞する等の実績を残す。
現在はプライベートエクイティに転職し、投資業務並びに経営支援、新規事業開発支援業務に従事中。

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