書評・レビュー: 2008年6月アーカイブ

 今年の上半期最後の一冊、仕事がらみの本ですが、中々勉強になりました。

 産業再生機構の再生委員長を努めた「企業再建」のプロフェッショナルによる解説書である本書は、事業再生の基礎知識から、事業再生の手法、諸外国並びに日本における関連法規などが網羅されております。

 特に、アメリカのChapter11に代表されるDIP(Debtor in Possession)制度を用いた企業再生について重点的にかかれており、近年、企業再建で主流になっている「民事再生法」や、ガイドラインに基づいた私的整理(*)の手法については、手続きのフローチャートを含め詳細に描かれる等充実した内容となっております。

*私的整理のガイドラインはこちら(PDF)

 一方、本書ではあまり個別企業についての再生スキームなどは述べられておりませんが、これらは、預金保険機構保管情報のHPにある支援内容詳細から見ることができ、知識の補完が可能となっており、この内容を見るだけでも勉強になります。(もっとも、具体的な交渉の手法までは書かれておりませんが)

 一般的に必要になるかといわれたら疑問ですが、個人的には非常に興味深い一冊でした。以前紹介したハゲタカのような小説を読む際の事前知識としても面白いと思います。

 土曜日の夜に遅ればせながら、ザ・マジックアワーを見にいってきました。六本木ヒルズのTOHOシネマズで20時開始でしたが、会場がアートスクリーンと言うこともあり、9割がた人は入ってました。

 映画の予告編から興奮させられるものがありました。なぜなら名物のマナー紹介ムービーにアニメーション、純粋な予告編で実写版とクラウザー様が降臨されていたから。TOHOシネマズでは無理かと思いますが、どこかの映画館でDMCの信者的に楽しむ上映会というものを用意して欲しいなあと思わず妄想してしまいました。正直、上映中に「ゴートゥーDMC!!」って叫びたいですもん。

 そして、メインのマジックアワー。佐藤浩市を中心とした俳優陣の演技(怪演を含む)と丁寧なシナリオの両軸はさすがだなという印象をうけました。

 前者に関しては、佐藤浩市、西田敏行はもちろん、個人的には伊吹吾郎がツボにはまりました。「撤収!!」といったシーンや病院に潜入しているシーンなど笑うしかないですもん。

 また、後者に関しても「売れない俳優がギャングと対峙する」という過去の作品よりもありえないシチュエーションにも関わらず、ストーリーとして破綻してない(と個人的には思いました)いうのは素晴らしい。さらに、大きなストーリーだけでなく、小さなエピソードもきちんと網羅しているバランス感覚にはうならされます。

 特に好きだったのが、マネージャー役の小日向文世さんと「ドロップ」のシーン。ちらりとした伏線がここで利いてくるとは!と映画館の中で思わず声を出して笑ってしまいました。

 7月に公開される「崖の上のポニョ」次第かもしれませんが、間違いなく今年の邦画の興行収入ナンバー1になるのではないでしょうか?(個人的には崖の上のポニョには興味がわかないのですが。)

 

 全世界で約8兆円もの資金を運用する世界最大級のプライベートエクイティ投資会社であるカーライルグループに関する本です。駆け出しではありますが、自分自身プライベートエクイティに属する業務を行っていることもあるので、後学のためにもと思い購入した一冊です。

 本書は主に3つの内容で構成されております。

  • カーライルのバイアウト部門(*1)におけるケーススタディ
  • マネジメント層や関係者へのインタビューとそれに対するコメント
  • 上記通じたカーライルや現在の世の中に関する著者の考察

*1 比較的大規模(投資金額50億円以上)の企業へのMBOを中核とする部門。「成長」「実質的経営サポート」「継続的成長のためのガバナンス構築」により企業価値を向上させることでリターンを挙げることを狙っている。

 おそらく、プライベートエクイティの業務自身をあまり知らない方はケーススタディが一番面白いのではないかと思います。実際に投資並びに経営支援を実行している経験がある側から見てもワクワクさせられる内容に仕上がっております。個人的には、第1章のコバレントマテリアルや第3章のキトーの例が大変興味深い内容です。

 また、プライベートエクイティとしてのマネジメントの手法も参考になります。その代表がP150に書かれているマネジメント手法です。現場の人々とコミュニケーションしながら、今起きていることが何で、それが組織にどのような影響を及ぼしているかを把握することに努める、というのがその具体的な手法ですが、適切な距離感を保ちつつ、判断のための情報収集を重要視する姿勢は非常に参考になりました。

 ただ、個人的に興味を惹かれたのはマネジメント層のインタビューのコメントです。

 一つ目はP18でカーライルで成功する人間像についてのルイス・ガースナーのコメント

 最も重要な資質は、与えられている経営環境の最高の側面を理解しそれを使い切るチカラです。経営陣の素晴らしさ、ファームが提供できる支援の力、そこに存在するさまざまな人間の力を理解し、それを理解できる能力です。

 もう一つはP228において日本法人の共同責任者である安達さんがコンサルタントとの違いの中で述べていたコメント

 「だからもし経営者ができないとなったら、カーライル人は自分で腕まくりをして経営するぐらいの覚悟を持った人間でなければならない。」

最後には自分で経営してでも価値を高めたいという強い覚悟、気概があった上で、投資先の経営陣に「あなたにやっていただくのだ」と要望する。

 「信じる力」こそがカーライルの強さなのではないかと考えさせられるコメントであると同時に、自分自身が業務に望む態度として持たなければと気を引き締めさせられました。 

 プライベートエクイティという業務固有ではなく、経営全般について考えさせられる面白い一冊でした。業界に興味がない方にもオススメです。

 京都の町に住む狸「矢三郎」を主人公とし、狸や天狗が織り成す騒動を綴った連作小説集です。四人兄弟の三男として奔放に育った矢三郎は、どこか頼りない家族や、おちぶれた師匠の赤玉先生等と共に日常を送ります。その中で、いたずらを仕掛けたり、敵対する狸一家との争いを繰り広げたり、時には悩んだりしながら日々を過ごしていきます。

 狸や天狗が主人公と言う意味で、過去の作品に比べるとファンタジーの要素が強くなっております。そのため、一冊目から読むと好き嫌いが分かれるところかと思います。

 ただ、底流にあるテイストとしては森見さんの別の作品である、「夜は短し~」や「四畳半~」(読んだのですがレビューしてなかったのでAmazonへのリンクを。)、「太陽の塔」といった著作と変わりません。京都という古都に流れる時の前では、ダメ大学生だろうと、狸だろうと関係ないのでしょうか。

 個人的に大事にしている読後感もいいです。本書の後半で繰り広げられる、狸同士の権力闘争は「化かしあい」という点でも人間同様、むしろそれ以上にドロドロしていたのですが、エピローグとなる八坂神社での初詣の締めくくりは読んでいて気持ちがいいものでした。

 現在、パピルスで続編が掲載されているようですが、まとめて読みたいので、楽しみに単行本の出版を待ちたい一冊です。

 ちなみに、余談ですが、他の森見さんの作品同様、読んでいると京都の街を歩きたくなります。個人的には9月上旬の京都音楽博覧会で訪れる予定なので、今年は街をぶらぶら歩きながら、京都の世界観を味わえればと考えております。 

 昨年「千年、働いてきました-老舗企業大国日本」を出版した著者によるノンフィクションライターの心得についての一冊。著者の野村さんの名前は、前述の「千年~」が様々な意味で面白かったので覚えており、その流れで購入しましたが、実際、アタリの一冊でした。

 本書の内容は8章にわかれた構成になっております。具体的に、前半の4章までは、資料や取材を通じた「調べる技術」について書かれており、後半の5章以降では「人物・事件・体験」という3つのテーマについてどのように執筆するかといった「書く技術」が述べられておりますが、ノウハウと心構えの両方の点で参考になることが多いです。

 ノウハウという点では、各種メディアからいかにして情報を収集していくかといったことが述べられている第二章の「資料を集める」が非常に面白いです。例えば、あるジャンルについての単行本を読みすすめる方法論を

  • インタビュー集・対談集から読む
  • 入門書から徐々にレベルを上げる
  • 対象について様々な角度から論じている複数の本を読む
  • 精読すべき本、通読する本、拾い読みでかまわない本を選別する
  • 資料としての本は乱暴に扱う

 と述べていますが、これらについて一つ一つ加えられている解説はなるほどと思わされますし、自らの仕事にも役に立つだろうと感じさせられます。

 同様に第四章の「話を聞く」において書かれている4つのポイント(話の聞き方・ノートのとり方・人物・情景の見方・インタビューのあとで)も実際に投資を検討するにあたってのヒアリングに使えそうな印象をうけました。

 加え、「インタビューのあとで」の中で書かれている言葉が非常に考えさせられます。ボクシング元世界王者の輪島さんの言葉を借りた「最後の10メートルダッシュ」は、普段仕事をする上で心に留めておきたい一言です。

 自らの書いたノンフィクション作品を掲載し、当時のエピソードを交え解説している6章以降の内容も非常に興味深いです。ともすれば、扇情的にもなりやすい「ニュージャーナリズム的手法」を排除しながらも読む側の琴線に触れる3編の文章は、まさに一流の職人芸を感じさせます。

 そう思うと、「千年~」が面白かったのは当然かと思われました。一流の職人が一流の老舗とその老舗を支える技術と職人について語っていたのですから。

 「千年~」ともども、オススメできる一冊です。

 

   

 講談社現代新書より発売されたスポーツジャーナリスト二宮清純さんの新刊。大きく二部構成に分かれており、前半の第一章、第二章は名監督・名選手に関するエピソード、後半の三章、四章はプロ野球を中心とした現在の野球をめぐる環境についての論説となっております。

 本書の見所はやはり前半部分、特に各監督、選手に対するインタビューの部分です。ここには、スポーツジャーナリストとして第一線で活躍してきた著者の力量が良く現れております。

 例えば、西武の東尾元監督との間における松坂論についての以下の部分。東尾さんが松坂の課題は「末端部分」にあると指摘した下りにある

確か東尾さんは西武に入団した年、キャンプで松坂にカーブばかり投げさせましたね。これは指先の感覚を磨かせるためですか?

 という質問。この質問により東尾さんの話が膨らんでいきますが、取材力と記憶力がなければでてこない質問ではないでしょうか。

 また、数々のバッターを育てた土井正博さんとのインタビューも非常に面白い。

 インコースのボールを打つ際に前の足は開いてもいいけれども、前の肩が開いてはいけないというバッティング論から、かつて土井さんがコーチした清原選手に関するエピソードに話が転換するのですが、話の転換のさせ方がお手本のような流れで、読んでいて上手いなあと思わされます。

 もちろん、書籍化にあたってインタビューの内容を編集しているのはわかりますが、それでも著者のスポーツジャーナリストとしての「取材力」「記憶力」「洞察力」の能力の高さは特筆すべきものに感じられました。

 「プロ野球の一流たち」というのは監督や選手だけでなく、一流を伝える著者の二宮さん自身も含まれるべき、そう思わされる一冊でした。話にマニアックな部分があるので、野球に興味のない方にはオススメしにくい所もありますが、野球好きなら読んでおいて損はしない一冊です。

 

 コンテンツ業界において活躍する9名のトッププロデューサーが仕事のツボについて語っている一冊。

 語っているメンバーは佐藤可士和、亀山千広を始めとし、テレビ・映画・広告・キャラクタービジネス・アニメ・マンガと多岐に渡った豪華メンバー。また、各人の話を「コンセプトを練る」「ヒットをマネジメントする」「世界ブランドを育てる」「壁に挑む」という4つのテーマに分類した形で構成されております。

 本書で面白かったのは、マンガの世界展開を手がけるビズ・メディアの福原社長のある行動。それは、「何人の社員に子どもが生まれ、何人が家を持ったか」を毎年記録しているということ。メリルリンチでリストラを担当し、現在も多国籍のメンバーを束ねるTOPの言葉としては異色な印象を受けましたが、トップの責任を端的に表現していると強く感じさせられました。

 一方、残念なのは、もう一歩先のインタビューではないということ。正直、読んだこと、聞いたことのある話が多く、本書だからこその情報が少ないです。意外なプロデューサーであったり、より深いエピソードであったりというのがほとんど見られないです。(個人的には、前述の福原さんだけ新鮮な話で、他の人は「XXで読んだなあ」という感じでした。)著名な方々ばかりなのだから、この点に関しては人選やエピソードの深堀り等、本書ならではの話が欲しかったです。

 そういった点で、各プロデューサーの話を見聞きしたことのない人の方がオススメの一冊です。

 

 ずっと気になっていた一冊ですが、素直に面白い一冊でした。

 舞台は1985年の夏から秋。舞台は厳しい管理教育で有名な野球弱小校である小金井学園高校。野球よりも夕焼けニャンニャンに夢中で、おニャン子クラブ の誰派で喧嘩をする野球部のキャプテン、岡村浩司が物語の主人公。キャプテンといってもジャンケンで負けたためになっただけの名前だけのキャプテンである上、野球部自身、公式戦、練習試合あわせても一度も勝利したことがなく、勉強の妨げとして校長からは敵視されているような存在です。

 その小金井学園に一人の転校生があらわれます。それは、岡村の中学校時代の同級生で野球推薦で競合校に進学したはずのイケメン沢渡。岡村を始めとした野球部員達は、ひじを壊してボールを投げられないといった彼を他の女子を釣るために野球部にひきこみます。

 そして、ある出来事をきっかけに沢渡のひじの故障が治り、剛速球なげられることがわかります。ヤル気のない集団だった野球部員は、彼のピッチングなら勝てるかもしれないと思い、野球をすることにし、実際、彼の力で予選を勝ち進んでいきます。

 と、ここまでが物語の序盤戦。この後、ストーリーは意外な方向に向かっていきます。

 この後のストーリーを書いてしまうと物語が面白くなくなるのですが、一気に読みすすめたくなります。また、心地よい読後感をもたらしてくれます。

 ありえない設定やわかりやすい展開は、文学的な立場から見ると評価されないのかもしれませんが、それ以上に、時代性をあらわしつつ、高校生なら誰でも感じたことがあるだろう感情を的確に表現している文章は、読んでいて本当に気持ちがよく、文庫本にして400ページ弱ありますが、本当にさくっと読むことができ、オススメできる一冊です。

 余談ですが、1985年はKKコンビが甲子園をわかせ、阪神が初めて日本一になった年で、野球界にとっては象徴的な年です。他にも日航機墜落事故やプラザ合意等、今でも日本に影響をあたえているような出来事が起きた不思議な年ですが、何か人をひきつけるものがあるのでしょうか?偶然かもしれないのですが、少し気になります。

 

Profile

HN:decchy
大手通信会社でエンジニア・営業経験を積んだ後、IT系ベンチャー企業に転職、 営業・企画・PR等を行うマネージャー業務を担当し、 2008年の東京インタラクティブ・アド・アワードに入賞する等の実績を残す。
現在はプライベートエクイティに転職し、投資業務並びに経営支援、新規事業開発支援業務に従事中。

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