2008年9月アーカイブ
実に9割が慢性的に赤字を抱えているという日本の旅館について、近年成功している旅館の取り組みを通じ、どのようにサービスを展開し、復権させていくべきかについてかかれた一冊です。
著者は、日本の旅館の低迷の根本的な原因を「団体旅行目当ての拡大路線」としています。高度経済成長からバブル経済の時期に至るまで、旅行代理店経由の団体客を獲得するために借入金を増やし、部屋数や設備を拡大したのはいいものの、バブルが崩壊した上に、旅行スタイルが団体から個人にシフトしてしまったことが原因となり、中規模クラスの旅館・ホテルが廃業や倒産に追い込まれているということです。
それに対して、まず、本書では、和のテイストを取り入れている海外リゾート、京都等の老舗旅館におけるホスピタリティの姿を紹介することで、あるべき姿について一つの示唆を与えます。
その上で、石川県山中市の「かよう亭」における宿屋ベースの取り組み、黒川温泉等の地域における取り組み、旅館再生のエキスパートといわれる星野リゾートにおける取り組みといったことが、様々なレイヤから語られていきます。
本書を通じて思ったのは、取材の丁寧さ。各旅館の地域の特色から、旅館内部の風景描写に至るまでが、非常に丁寧に描かれており、綿密な取材に基づいて執筆されている印象を受けます。このあたりは、プロの仕事を感じさせます。
ただ、一方で思ったのは、理想論に過ぎる傾向があるということ。
それが端的に現れているのが、P212にある以下の文章。
本書で取り上げた星野リゾートによる旅館再生とは、「ダメなホテル」と化した大型日本旅館を「いいホテル」に進化させる努力である。規模や顧客対象を拡大した日本旅館を、そのまま未来に維持していくには、おそらくこの手法しかないだろう。
だが、本来の日本旅館の魅力を「正統進化」させるためには、旅館の主人と女将が豊かなホスピタリティを持って顧客を迎え、小規模な状態で家族的サービスを提供することによって、客の信頼を獲得するしかない。
上記の考えは至極まっとうだとは思いますが、この形態では50年、100年と時代を経た場合に、旅館側が生き残っていくのは正直厳しいと個人的には考えます。
その一番の要因は、今後間違いなく増えてくる、星野リゾートのような形態のホテル連合の増加、海外の高級リゾートの国内進出という直接的脅威にあると考えます。
上記のようなホテル連合などは、今後も、「地域文化に合わせたホテル展開」「近代的コスト意識」「教育並びに、データベース化によるホスピタリティの確保」といった特徴をもって大規模旅館が各地で展開し、高い満足度を得るようになるでしょう。さらに、上記のサービスを享受するであろう世代は、20代から30代で比較的可処分所得が高い層である可能性が高いと考えます。そうすると、彼らが40代、50代となった場合に、わざわざそれより高い費用を払い、どこまでいいサービスが受けられるか分からない高級旅館に滞在するかというと個人的には難しいという印象を受けます。(その他に産業としての発展性等もありますが…。)
ただ、本書について言いたいのは、内容や意見の正しさよりも、「いい新書」だいうこと。個人的にいい新書とは、読み手に対して一定の示唆を与えてくれる本であり、そのために「綿密な取材」「精緻な描写」「明確な主張」(合意できるかは別)の3つが存在していることだと考えておりますが、本書にはそれがあります。
角川oneテーマには良書が多い印象がありますが、本書もそれに漏れずいい本でした。著者の前著である「ホテル戦争」も時間を見て読んでみることとします。
文庫本の表紙が気になって購入した一冊で、著者は「君たちに明日はない」の垣根涼介です。
一言で言うと、ベトナムを舞台にしたハードボイルド小説です。
得意先の社長である中西の依頼により、旅行代理店に勤務する長瀬は、中西の孫の慎一郎をベトナムに連れて行くこととなります。ただ、慎一郎の目的は普通の旅行ではなく、失踪した父親を家族にナイショで探すことで、その手がかりはベトナムを紹介した一本のVTRだけでした。
VTRにあった、ベトナムの市場風景において父親らしき人間がうつっていたということをヒントに、長瀬と慎一郎、そして永瀬の友人の源内はベトナムはホーチミンに旅立ちます。
旅先のベトナムでは、仲間となるタクシー運転手や娼婦を中心とした出会いや、妨害との戦いを繰り広げたりして、クライマックスへと向かっていきますが、そのクライマックスは少年にとっては、切ないものでした。
本書をよんでの感想は、それは、「ホーチミン」という街に生きるということが印象的に描かれているということ。本書では、過去の紛争の爪あとを残し、矛盾をかかえつつも、その街で生きている人々の姿が非常に印象的に描かれており、考えさせられる所があります。
ハードボイルドの描写としては、「そこまでは」という所がありましたが、そういった意味で、面白い一冊でした。
先週の土曜日にNHKで放映された「日本柔道を救った男~石井慧 金メダルへの執念~」が非常にいい番組だったので備忘の意味をこめて書いておくことにします。
前回のアテネ大会に比べ成果が残せなかった北京オリンピックの男子代表の中で、100キロ超級で金メダルをとり「一矢を報いた」石井選手に焦点をあてた番組だったのですが、異色のアスリートを非常に上手く紹介しておりました。
今回の日本柔道の苦戦の理由を、柔道が「JUDO」に変化を遂げていき、どのような体制からも技をしかけてくる時代となった中で、「技のキレイさ」にこだわってしまっていること(環境変化に対応できなかった恐竜と似ているかもしれません)と分析した上で、「勝つことにこだわるために」、形にこだわらず、自分を環境に対応させていった石井選手の姿を描いておりましたが、長期間かけ丁寧に取材されたことが伝わってくる番組でした。
ヨーロッパ遠征で不用意な逃げから二度も投げられてしまった経験をばねにしつつ、実践を通じ欧州の競合は「3分経過後」に体力が落ちると学んだ結果、
- 体力をアップさせる
- 勝負タイムでの決め技を磨く
- 相手の体力を奪いつつ、「指導」を相手に与え優位に立つ
ことが勝利に必須と考え実行したプロセスは見ていて目から鱗が落ちる内容でした。
もちろん、石井選手の「地頭の良さ」というものがあってこその内容なのですが、取材対象者との間に適切な距離感をとり、綿密に取材を行ってきたことが画面越しに伝わってくる「さすがNHK」と思われる内容でした。
こういった番組を見ると、改めて視聴料を払う価値があると感じてしまいます。ぜひ再放送やオンデマンドで再視聴できればと思う番組でした。