書評:国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて/佐藤優

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 ベストセラーを記録し、第59回毎日出版文化賞を受賞した本書は「外務省のラスプーチン」こと佐藤優氏が、外務省でどのような活動をし、鈴木宗男衆議院議員と共に北方領土返還交渉に携わったか、そしていかにして悪役とされ、最終的に「国策捜査」によって逮捕され、第一審で懲役二年半、執行猶予四年の有罪判決を受けるに至ったか(*1)が克明に書かれている。

*1 現在、最高裁判所に上告中

 鈴木宗男関連事件とはどのような背景の下でどのように事件化されたか、また、どのように「国策捜査」が始まり、どのように完結していくのかといったことを知るだけでも有意義だけれども、それ以上にプロフェッショナルとして生きている人間の「ケーススタディ」として読んでも、本当に面白いと感じさせられる。間違いなくオススメできる一冊。

 本書を読んで感じた点は主に3点。箇条書きにすると

  • 佐藤優の持つプロフェッショナリズム
  • マスメディアと中心とした「空気」と、空気が生む「国策捜査」の恐ろしさ
  • 「信頼」とは何か

 といったこと。

 まずは、インテリジェントオフィサーとして、佐藤優氏がいかにプロフェッショナルだったか。こちらに関しては、文章を通じて感じ取れる著者の情報に整理、分析の姿勢から感じられる。「事実関係を克明に記憶し、物事の全体像を把握、その中で状況とプレイヤーの意図について、客観的に分析し、組み立てていく」その姿勢は、まさにプロフェッショナルという凄みを感じさせてくれる。

 また、本書の一つの目玉とも言える東京地検特捜部の西村検事とのやり取りの様子からもそれはうかがい知ることができる。西村検事との取調べにあたり「鈴木宗男関連事件における自己のポジション」「西村検事の持つ価値観、世界観」を取り調べの初期で把握することに努め、その上で「阿吽の呼吸」で供述調書をつくりあげていく「交渉現場」の描写は、お互いの立場を認めた上でのプロ同士でなければなしえないもののように感じられた。

 2点目は、世の中の「空気」と、それに基づく「国策捜査」の恐ろしさ。一人の声の大きい政治家がきっかけで、世論が動き、その世論に動かされ、悪党扱いされ、詳細はともかく、逮捕されるに至った経緯を読むと、それこそ、戦前の言論統制にも似た恐ろしさを感じさせられた。加え、現在の報道にはフォローアップがほとんどなく、一方的に傷つけられたイメージ、名誉の回復がなされない点についても大きな問題点として感じられた。

 最後、「信頼」について。北方領土の返還交渉という場面だけでなく、人間的にお互いを認めていたと思われる鈴木宗男衆議院議員と佐藤優氏に共通する「軸がぶれない誠実さ」を本書では感じることができる。ま(この誠実さは東京地検の西村検事にも感じられる一方、一部の国会議員や外務官僚には残念なが感じることができない。)

 そういった誠実さは組織の中「だけ」で生きていく場合は、必ずしも必要のない資質かもしれないけれども、こういった資質を持つ人間が正しく生きていける世の中であってほしいと、そういった人間でありたいと思わずにいられなかった。

 

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HN:decchy
大手通信会社でエンジニア・営業経験を積んだ後、IT系ベンチャー企業に転職、 営業・企画・PR等を行うマネージャー業務を担当し、 2008年の東京インタラクティブ・アド・アワードに入賞する等の実績を残す。
現在はプライベートエクイティに転職し、投資業務並びに経営支援、新規事業開発支援業務に従事中。

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